IoTプラットフォーム提供による事業支援

WAKU WAKU インタビュー

はじめに:
「通信技術が生活に欠かせないものとなった現在、IoTは現場のデジタル化のトレンドになるのではないか。」IoTプラットフォームの提供を行う株式会社ソラコムの松下さんに、IoT導入支援を行うなかで見えたDX化の課題や、インフラとしてのIoT技術の普及といった今後の展開についてお伺いしました。

●お答えいただいた方

 

株式会社ソラコム
テクノロジー・エバンジェリスト
松下 享平さん

事業領域について

事務局:ソラコム様の事業領域、概要等について教えてください。

松下:IoTに必要な要素は3つあります。1つ目はIoTのTにあたるThings=モノであり、具体的にはセンサやカメラ等のハードウェアといった「デバイス」、2つ目はデータを活用するための仕組みとしての「クラウド技術」、3つ目は現場とクラウドを繋ぐための「ネットワーク」です。ソラコムはこれらのIoTに必要な3つの要素をお客様にご提供しています。お客様がすでに現場で導入されているデバイスやクラウド、通信ネットワークがある場合は、それに組み合わせる形で必要なサービスをご提供することもできます。ビジネスシーンでのご利用が多いですが、お客様は法人に限定していません。

事務局:ソラコム様が取り組んでおられるIoTプロジェクトの概要について教えてください。

松下:お客様が現時点で必要とする、または今後発生しうる課題を解決するためのサービスを提供し続けることが私たちの使命です。ソラコムが通信やクラウド連携といった技術サービスを提供し、お客様が自らIoTの仕組みを作って課題を解決することも少なくありません。業務形態としては通信事業者に近いかもしれません。しかし単純に通信サービスを提供するのではなく、どこからでも繋がる通信を提供したい、という思いが1番大きいモチベーションとしてあります。

事務局:幅広い分野で数多くのIoTプロジェクトを支援していらっしゃるとお聞きしています。今回は特に、他国に比べ自然災害の多い日本の防災や、就労率低下などの課題を抱えている農業における取り組み事例をお伺いできますか?

松下:防災分野であれば、現場をどうやってデジタル化するか、またその現場で得られたデジタルデータの情報をどうやって本当に必要な人たちのみに配信するか、ということが課題であると防災の現場で活躍される方からお伺いしたことがあります。災害時に、どの地域まで被害が及んだのかといった情報が把握しづらく、かなり局所化して見積もってしまうと必要とされる地域まで避難情報を配信することができません。

そのような課題を解決するために京都府福知山市様へセルラー通信式浸水検知センサの導入をご支援しました。(協力パートナー:亀岡電子株式会社)浸水情報を市民へ提供することが可能となり、避難活動に役立てられています。

福知山市は近年多くの水害に見舞われており、以前より水位変化を監視する機器を設置したいというご要望がありましたが、設置にかかるコストがネックになっていました。そこでIoT技術による通信技術と安価なデバイスを組み合わせて検知センサを作ったことでコストの問題が解決されました。

また農業分野においては兵庫県南あわじ市様にスマート農業へのIoT技術の導入を支援しました。(協力パートナー:株式会社神戸デジタル・ラボ)

 農業はやはり天候に影響を受ける要素が多く、例えば土の水分量などは現場に行かないと分からないことが多くあります。IoT技術を導入することで、人間が実際に現地へ行かずともデータ収集が可能になるような仕組みの構築が、通信を使うことで可能になりました。

IoT導入支援について

事務局:ソラコム様のIoT導入支援にかかる強みはどういった点にありますか?

松下:ソラコムの強みは大きく2つあります。
まず1つ目は、IoTデバイスに繋がることを前提に通信サービスを提供している仕組みの点にあります。クラウド上に交換機機能を作り上げることにより、インターネットの脅威をできる限り少なくしています。

そして2つ目は、お客様に組み合わせも含めてトータルでサービスをご提案しているという点です。IoTを導入するにあたってのノウハウが足りない部分には、ソラコムのパートナーを紹介することなどのご支援を行います。

事務局:クライアントのIoT導入の背景として、どういったニーズや期待が多いのでしょうか?

松下:お客様からご期待いただく点は大きく2つあると思います。
1つ目は、IoT化を進めることで既存事業に新しいサービスを追加し、新たなビジネスや既存ビジネスのスマート化を展開することです。

2つ目に、今まで繋がっていなかった現場を繋げることにニーズがあります。レトロフィットという言葉が使われたりしますが、デジタルデータを取得する機能を持たない製造ラインから情報を取れるように必要なサービスを導入するというケースです。

事務局:IoTシステムの導入に際して、浮かび上がる課題やボトルネックはありますか?

松下:サービスをご提供する中で、サービスを組み合わせるなど、自社に必要な仕組みを構築するスキルが高いお客様もおられる一方で、IoT化を進めるにあたってどこから手を付けるべきかわからないといったお声もあり、DXに関するリテラシーが二極化していると感じます。IT人材の不足を課題のひとつとして捉え、私たちは無料のセミナーの開催や、業界に特化したご相談を受けてくださるパートナーのご紹介など、お客様自身が課題を解決することに繋がる機会を提供しています。

事務局:テクノロジー環境構築の側面で感じられる課題や期待はありますか?

松下:課題は大きく2つあります。
まず、通信は繋がらなければ意味がありません。繋がるということが最大要件であるので、その通信が安定的に繋がる環境を整備する必要があります。

そして次に、データを取得するにあたって電源の問題があります。小容量のデータであっても長寿命で稼働することが求められます。電源の問題への対処はバッテリーを搭載し、なるべく省電力で長く使う方法と、もしくは太陽光パネルを用いて電力の地産地消をする方法があります。

データを取得してから、そのデータが使えるようになるまで、実はタイムラグが結構あります。一方で、例えば設備管理にIoTが導入された現場では、データを活用するにあたって、できる限りリアルタイムな結果の反映が求められます。そのため、IoTと似た概念であるM2M(Machine to Machine)などの専用ネットワークを構築することでデータ反映までのタイムラグを少なくする仕組みをとっています。そのようなM2Mの領域で展開されていたサービスに対しても、IoTネットワークでできる限り遅延のないデータ交換が低コストでできるようになることが、5G技術に期待するところかなと思います。

今後の展開

事務局:今後、ソラコム様が目指すIoTプロジェクト支援の将来像を教えてください。

松下:私たちとしてはやはりどの地域にあっても繋がる方法論をできる限りご提供したいという思いが一番にあります。多数のIoT端末のネットワーク接続を低消費電力で実現する非地上系通信NB-IoT NTN(NarrowBand-IoT Non Terrestrial Network)を使った取り組みも行っているところです。

また現時点では業界に特化したソリューションのご提供を意識しているわけではありませんが、例えば製造業であったり、小売業であったり、それぞれの業界においてデジタル化がどのように機能し、どのようなメリットがあるのかということを情報発信していくことも私たちの責務だと考えています。

通信を確保することで離れた場所の状況がリアルタイムに把握できるなど、通信は現代のインフラに不可欠なものになっていることを実感しているところです。

コンピューターの出現で生産性が上がり、インターネットで人同士がつながりあい、次にデータの活用や管理の手段としてクラウドが出現したというように、大体10年周期程度でITのトレンドが変化していると思っています。その意味でIoTは、現場のデジタル化のトレンドではないかと感じています。デジタル化をするためのインフラとしてのIoTは、これからIoTという名前自体も使われなくなるほど一般的な技術になるのではないかと思います。

事務局:ありがとうございました。