「スマートシティの”現在地”と”これからの展望”」

WAKU WAKU インタビュー

はじめに:
一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアムは、各地域におけるスマートシティの社会実装に取り組んでいます。スマートシティに不可欠な「データ」を収集、連携するためには、通信技術の更なる発展・活用も不可欠となる中、スマートシティの「現在地」と「これからの展望」について、コミュニティマネージャーの土屋様にお話しをお伺いしました。

●お答えいただいた方

 

一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアム
事務局・コミュニティマネージャー 
土屋 俊博 さん

スマートシティについて

事務局:まずは、土屋さんの自己紹介をお願いします。

土屋:土屋俊博です。電機メーカーで経営企画・事業企画を十数年担当し、その後、2019年6月から内閣府科学技術・イノベーション推進事務局で、「スマートシティ政策」を担当しました。2022年6月から、一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアムの事務局兼コミュニティマネージャーとして、スマートシティの推進や地方公共団体のスマートシティのアドバイザリーに携わっています。その他、スマートシティ・インスティチュート(SCI-J)フェローや中小企業診断士としての活動、シビックテックにも取り組んでいます。

事務局:今日は特徴的なお姿ですね。

土屋:「スマートシティ」というと、どうしても堅苦しく捉えられることが多いです。私は、「スマートシティ」を略して「スシ」と勝手に呼んでいるのですが、「スマートシティに取り組む人」という意味で「スシ屋」として、このスシ職人の姿でイベント等に登壇しています。

事務局:では、本題なのですが、「スマートシティ」という言葉をここ3,4年でかなり耳にする機会が増えました。どのようなものなのでしょうか。

土屋:ものすごく簡単に言うと、「スマートシティは、新しい技術をまちづくりに活かす」ということです。スマートシティの定義は街ごとにそれぞれあるのですが、共通的な定義は内閣府で定めていまして、
・ICT 等の新技術や官民各種のデータを活用した市民一人一人に寄り添ったサービスの提供や、各種分野におけるマネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化等により[手段]
・都市や地域が抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける[動作]
・持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場[状態]
のこととされています。

事務局:なぜ、「スマートシティ」が求められているのでしょうか。

土屋:日本は、2004年に人口のピークを迎えた後、人口が減少しています。各種統計に基づく予測では、15~64歳の生産年齢人口が現在の7,449万人(2020年)から、2060年には4,793万人程度になり、「今まで3人でやっていたことを、2人でやらないといけない」という状況になります。人手が減る中で、「どのように地域を維持していくのか」ということが課題となります。そのような背景で、「人口が減少する中でも、住みよい社会や地域を維持していきたい。そのために、新しい技術や手法を上手く使いたい」ということになるのではないでしょうか。

2021年に閣議決定された「第6期科学技術・イノベーション基本計画」では、「次世代に引き継ぐ基盤となる都市と地域づくり(スマートシティの推進)」との記載があります。日本に生まれた子どもたちが、引き継いでいきたいと思える「まちづくり」、「地域づくり」を進めていくことを意識していく必要があると思います。

事務局:ありがとうございます。スマートシティの取り組みは、様々な地域で広がっているのでしょうか。

土屋:そうですね。最近話題となっている「デジタル田園都市国家構想」でも、スマートシティやスーパーシティの取り組みが推進されているほか、内閣府や総務省、国土交通省、経済産業省が連携して取り組む「スマートシティ関連事業」では、既に400程度のプロジェクトが進められてきました。また、デジタル田園都市国家構想交付金等も活用しながら、全国各地でデジタルの実装や、都市OSやデータ連携基盤の整備等が進められている状況です。また、内閣府の「スマートシティ・リファレンスアーキテクチャ」も2023年8月に改訂され、「戦略的イノベーションプログラム第3期(SIP第3期)」でも検討が進められています。

(出典:経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進委員会国と地方のシステムワーキング・グループ第31回資料3-1(内閣府提示資料P.2))
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/20220419/pdf/shiryou3-1.pdf

コンソーシアムの取り組みについて

事務局:所属されている「スマートシティ社会実装コンソーシアム」ではどのような活動をしているのでしょうか。

土屋:スマートシティやデジタル化は先ほど申し上げた通り、各地で取り組みが進められています。しかし、「実証から実装」にするためには、「ビジネスモデル」を考えていく必要があります。そのためには、自治体/民間、業種・地域を超えた官民連携によるエコシステムが必要であり、デジタル技術の社会実装を進めるための枠組みとしてコンソーシアムを作りました。スマートシティの「リファレンスアーキテクチャ」の検討を行ってこられた東京大学大学院情報学環の越塚登教授に代表理事をお務めいただき、現在150を超える企業や自治体、大学等研究機関、中央省庁の皆さまに参画いただいています。

事務局:ありがとうございます。民間企業も様々な企業が、業種を超えて参画されていますね。

土屋:そうですね、特定の企業集団に限らず、様々な方に参加いただいています。活動としては「住民のこまりごとを解決し、より良い暮らしの実現を図るスマートシティのサービスや事業モデルの構築・展開と、持続的な運営を可能とする仕組みづくり」を産学官で連携して取り組むべく、マーケットプレイスの構築等による「サービスや提供価値の全国展開」、分科会や研究会活動等による「サービスや提供価値の先鋭化」、会員やアドバイザーの知見等を活用した「事業モデルや提供価値の実装推進」等に取り組んでいるところです。

事務局:スマートシティの実装をどのように進めているのですか。

土屋:「スマートシティをつくる」というと、どうしても分かりにくくなりますので、スマートシティ全体のエコシステムを回すために、私たちは「具体的なサービスをつくること」にフォーカスしています。ビジョンの共有や課題解決のためのサービスの検討を行う「企画」、サービスの「開発」、自治体と事業者の共創による「実装」、そして「展開」というサイクルを回していければと思いますし、その各フェーズで私たちがお手伝いできることがあるのではないかと思います。やはりまずは「企画」が肝であるという印象を持っており、「地域の課題の掘り起こし」が非常に重要です。地域のリアルな課題を知るための「フィールドリサーチ」を行い、会員各社の皆さまを交えて具体的なサービス開発に向けた活動を行っています。様々な自治体からお話を聞き、スマートシティ領域の12分野をコンセプトの一例として整理しています。あくまでも一例ですが、こういったものをたたき台として幅広く議論を行っています。

スマートシティと通信の関わりと期待について

事務局:スマートシティと通信の関わりについて、教えてください。

土屋:スマートシティにおいて通信には、四つの役割があると思います。まず一点目は、「リファレンスアークテクチャ」のいう「スマートシティアセット(センサー等データを取得するデバイス)」から、取得したデータを都市OSに連携する際の活用です。二点目は、「スマートシティサービス」を住民、企業、観光客等利用者に届けるための活用です。そして三点目は、利用者の方がスマートシティのマネジメントや意思決定にデジタルで関わる際の活用です。そして四点目は、「他地域や他システムとの相互運用や連携」への活用です。また、都市部であれば対面でサービスを受けることができますが、地方部や離島等であれば必ずしもそうではないケースがあると思いますので、都市部と地方部では通信に対する「違う解の持ち方」もあるのかもしれません。

事務局:今後スマートシティの取り組みはどのようになっていくのでしょうか。

土屋:今後のスマートシティの構築に向けて、2030年頃を見越した中長期的な目線による「スマートシティ・ロードマップ」を社会全体で作っていく必要があると思います。「地域の持続可能性」や「Well-beingの向上」、「経済の活性化」等を進め方の軸としていくと、街の情報の見える化や、新しいサービスを作るためのプラットフォームの整備、スマートシティの海外輸出や海外展開、人材育成等を進めていくことが求められるのではないでしょうか。Beyond5G/6Gも2030年頃に実現するということで、「スマートシティ」と「Beyond5G/6G」で2030年に向けて、戦略的に連携できるといいですね。

事務局:次世代通信が「当たり前のインフラ」として都市部、地方部を問わず広く提供されることで、様々な分野の先進的なサービスの提供につながり、人々の暮らしを豊かにしていくことができるのだと思います。今日は、ありがとうございました。