Web3Dを活用した「可視化」によるDX事業の取り組み

WAKU WAKU インタビュー

はじめに:
DX事業を展開するアジアクエスト株式会社は、Webブラウザ上でデータを3次元で表現す
るWeb3D技術を活用したシステムを開発しています。建設・不動産業界を中心に導入され
るシステムにはどんな可能性があるのか、アジアクエスト株式会社の小畠さんにDX事業と
Web3D技術開発の背景についてお伺いしました。

●お答えいただいた方

 アジアクエスト株式会社
  営業部 部長
 小畠 芳紀さん

企業等のDXに向けた取組みについて

事務局:まずは、貴社の事業概要についてお聞かせください。

小畠:弊社は、IoT、AI、Cloud、Web、Mobileなどのデジタル技術を組み合わせることで新しい価値創造の支援を行う、デジタルトランスフォーメーション事業を展開しています。DX事業をご支援している企業様は建設・不動産、情報通信、製造、卸売・小売、自治体等、多岐にわたります。

事務局:DX事業を通して解決できるお客様の課題とはなんでしょうか。

小畠:1つはデジタル化とデジタライゼーションのギャップです。お客様はデジタル化までは進んでいるものの、DXの本来の目的であるデジタライゼーションに至っていないと感じていることがあります。デジタライゼーションは、単にデータをデジタル化するだけでなく、それを活かして業務プロセスや意思決定を効果的に改善することを指します。
またDXは技術だけでなく、組織文化やリーダーシップの在り方も変革、つまり組織改革も求められます。デジタル技術を活用した新しい業務手法やコミュニケーション手段が導入される場合、組織全体がそのシステムに適応するためにはトップダウンでのサポートが必要です。リーダーシップ層がDXの優先度を理解し、従業員に変革への参加を促す文化を築くことが求められます。
また組織改革と同様にデジタル人材の不足も解消すべき課題といえます。デジタル技術を活用するためには、従業員が新しいスキルや知識を獲得する必要があります。DX推進において、組織はトレーニングや教育プログラムを提供し、従業員が必要なスキルセットを身につけやすい環境を整えることも重要です。

事務局:各業界でのDXへの関心の高まりはどういった点に要因があると考えられますか。

小畠:データの「可視化」がキーワードのひとつになると考えます。
建設・不動産業界を例に取ると、施工、設計、営業の各現場でそれぞれに多くのデータが蓄積されますが、そのデータが有効活用されていないことがあります。それはデータを扱うシステムのインターフェイスが古めかしく、イメージが湧きづらいことが要因のひとつであると考えます。実際にデータを扱う現場で採用されるシステムの導入を考えたときに、直観的に分かりやすいUI(ユーザーインターフェイス)が求められます。弊社ではそういった課題を解消するサービスとしてWeb3Dシステムの取組みを進めています。

Web3Dシステムを活用した「可視化」について

事務局:Web3Dとはどういったものでしょうか。

小畠:Web3Dとは、3DコンテンツをWebブラウザ上で表示するシステムを指し、より直感的なUI/UX(ユーザーエクスペリエンス)をご提供することができます。名前が似通っているため混同されやすいですが、Web3.0とは全く異なるものです。
Web3Dシステムは、Unreal EngineやUnityをはじめとしたゲーミングエンジンやThree.jsなどのプログラミング技術を活用することで、Webブラウザ上で3Dコンテンツの表示が可能となり、スマートオフィス・スマートファクトリー、ECサイト等さまざまな場面で新しい価値の創出が期待できます。

事務局:Web3Dの普及のポイントはどういった点にあるとお考えでしょうか。

小畠: まず、コンテンツの平面的な表示が主流だった頃から、ゲーミングによる3D技術の発展に伴ってデバイスの処理能力も向上し、エッジ側で実現できることが技術的に増えたという背景があります。そして5Gの普及やクラウド技術の発展といった、3Dでコンテンツを表示させたいと要望していたユーザー側の課題を解消する要因が重なったことでWeb3D技術が普及しているのではないかと考えます。
またWeb3D技術を活用したDX化のご支援をおこなったお客様との対話の中で、今まで2次元で表現されていた情報に、奥行き等、立体的な3次元情報を可視化することでデータとしての視認性の向上が実感できると伺いました。またそういった一次的なメリットの他にも、データが扱いやすいインターフェイスを採用することによって現場でのシステム利用を促す動機づけになるといった心理面での効果もみられるというお声もいただいています。

事務局:Web3D開発の背景についてお聞かせください。

小畠: Web3Dの開発は、自社のIoTプロダクトを通じてIoT業界に対応していく中で始まりました。もともとWeb3D技術というものはゲームエンジンから始まったと言われています。実際にゲームをする中でリッチな映像に驚かれたこともあるかもしれませんが、ゲーム業界で発展しているこのWeb3D技術をビジネスにも活かせないかと考えました。
主な問題は差別化戦略の困難さでした。IoTプロダクトにおいて企業が求める差別化のポイントは、高精度、低価格、省エネルギー、コンパクト性といった点で、システムインテグレーターである私たちにはアピールが難しい面がありました。その一方で、IoTベンダーはデータの提供に重点を置いており、ウェブインターフェースのビジュアライゼーションにはあまり力を入れていませんでした。
しかし、私たちの顧客であるBIM(Building Information Modeling)業界のリーディングカンパニーは見せ方の重要性を認識しておられ、中でも3D技術に興味を持たれていました。彼らとの議論の中で、現場には優れたデザインが必要であり、BIM業界ではそれが3Dであるべきだという示唆を受けました。

事務局:各業界において想定されるWeb3Dのユースケースについてお聞かせください。

小畠:例えば、建設・不動産業界では管理者がWeb3Dシステムを利用することで、現場に足を運ぶことなく数件の現場を一括で管理することが可能となります。
小売業界ではWeb3Dシステムを使用して画面上で各パーツを組み合わせることで、オーダーメイド商品の完成イメージを提供する事例もあります。実際にはまだ完成していない部品を画面上で表示して組み込むことも可能であるため、ユーザー側のカスタマイズの自由度も上がるのではないかと考えています。

今後の展開

事務局:Web3Dの今後の見通しを教えてください。

小畠:Web3Dの将来については、「表示板から操作盤へ」の変革を目指しています。現在はモニタリング装置として使われていますが、増加する現場のロボット操作用のインターフェイスとしての使用を検討しています。例えば、1階の資材を12階に運ぶ操作をロボットで行う際に、従来のコントローラーではなく、3Dモデル上で資材をドラッグアンドドロップだけで操作できれば、現場作業員の負担を大幅に減らすことができるでしょう。

また、生成系AI技術を活用した取り組みも必要だと考えています。
音楽、動画、音声、3Dモデル生成など、生成系AI技術を活用した新しいUXを提供します。

事務局:そういった今後の展開を実現するにあたっての次世代通信への期待感はありますか。

小畠:画面越しにロボット操作をおこなうにあたっては通信の不安定性や遅延が許容できません。画面上でロボットを動かしたいと考えたときにデータを受け取る「上り通信」と同様に、指示をする「下り通信」においてもリアルタイム性を求める場面ではPCや通信規格のスペックは物理的な障壁になると考えます。
こういった今後の展開を考えると、デジタルツインではリアルタイム性やデータの大容量性という観点が必要になってきます。ブラウザを通してロボットの操作を行う場合、データの送受信にタイムラグがあっては動きを正確に制御することが困難になるため、実際の現場では数秒の遅延も許容されません。またより解像度の高い画像・映像データをクラウドに上げてブラウザ上に表示すると必然的にデータ量も増加します。
そういった意味で、次世代通信技術のBeyond 5Gは大きな転換ポイントになると考えています。

事務局:ありがとうございました。