町田市におけるDXの取り組み

WAKU WAKU インタビュー

はじめに:
 クラウドシフトやメタバース、ジェネレーティブAI(生成AI)の利活用等、先進的なデジタル化の取り組みを進める町田市政策経営部デジタル戦略室の髙橋晃室長、栗山敏雄担当課長、和田進吾担当係長に、「DXの取り組み」と「工夫」等をお伺いしました。

●お答えいただいた方

 

町田市政策経営部デジタル戦略室
室長 高橋 晃さん
(一般財団法人GovTech東京 デジタルサービス基盤開発本部 本部長補佐)

  e-まち推進担当課長 栗山 敏雄さん

 

基盤系システム担当係長 和田 進吾さん

「町田市」の”デジタル化”の全体像

事務局:町田市様と言えば、「行政DXのトップランナー」というイメージを持っています。ジェネレーティブAIやメタバースなどの導入にも取り組まれていると思いますが、まずは町田市の「デジタル化」の全体像を教えてください。

高橋:町田市では、2023年12月に「町田市デジタル化総合戦略2023」をまとめました。この総合戦略では、「戦略1 クラウドサービスへのシフト」、「戦略2 20の基幹業務システムの標準化」、「戦略3 DXの推進」を3本柱に掲げています。
 戦略1については、2023年度時点でシステムの95%が「ガバメントクラウド」を含むクラウドサービスに移行できており、2024年度中には100%クラウドサービスに移行できる見込みです。また、2024年度からは、行政ネットワークを「自前の専用回線」から「5Gキャリア回線」へ移行を開始し、「フルワイヤレス」化を目指していきます。
 戦略2については、20の基幹業務(※)のうち3業務を2024年度に、残る17業務を2025年度に移行できる予定です。

 

 (※)住民基本台帳、選挙人名簿管理、固定資産税、個人住民税、法人住民税、軽自動車税、国民健康保険、国民年金、障害者福祉、後期高齢者医療、介護保険、児童手当、生活保護、健康管理、就学、児童扶養手当、子ども・子育て支援、戸籍、戸籍の附票、 印鑑登録

戦略3については、ジェネレーティブAIやメタバース等「トレンド技術」の積極的な導入を進めています。外部有識者で構成する「町田市デジタル化推進委員会」でも、メタバースを活用してライブ配信を行いましたが、YouTube Liveでの配信よりも、多くの方にご覧いただくことができました。「情報発信のマルチチャネル化」という意味で面白いと思います。
 また、昨年は、「Tokyo区市町村DXaward2023」大賞を受賞し、「全国自治体DX推進度ランキング」では全国3位となりました。全国に先駆けて取り組んでいるものもあります。

事務局:ありがとうございます。町田市のウェブサイトを拝見し、「町田市デジタル化総合戦略」を2022年、2023年と続けざまに更新されていると知りました。デジタル化を取り巻く政府の政策動向や技術の進歩に応じて、機動的に対応されている姿が大変印象的でした。

トレンド技術の活用について

事務局:ジェネレーティブAIやメタバース等の新しい技術を実際に使ってみて、どういった印象をお持ちでしょうか。

高橋:メタバースには様々な使い方がありますが、私たちはメタバースを、「デジタルツイン」や「町並みのリアルな再現」という使い方ではなく、先ほどの「町田市デジタル化推進委員会」の視聴会場や、市の事業評価イベントでの高校生との意見交換の場として、さらには、オンライン手続のポータルサイトとして活用しています。そういった使い方であれば、そこまで高機能なものでなくとも使いやすく、十分役に立つように思いました。
 ジェネレーティブAIは、現在、町田市の全職員がChatGPTを使えます。現状、ChatGPTの受け答えは、「一般的」なものになりがちです。今後は、「町田市に関する情報であれば必ずヒットする」といった、特化型のAIがあってもいいかもしれません。国産のジェネレーティブAIで、学習内容のコントロールがしやすく、小回りが利くものが出てこないか、期待しています。
 ジェネレーティブAIについては、誤情報を生成してしまうことがあり、使う場合は人が「確認」することが必要です。ただ、AIかどうかにかかわらず、仕事で「確認」は必要ですよね。そこは同じだと思いますので、安全を確保しながら、活用をさらに進めていこうと考えています。

(町田市デジタル化推進委員会)
(行政手続ポータルサイト)

事務局:「トレンド技術」を掴むためには、システムベンダ等から情報収集するとともに、個人的に様々なところにアンテナを張って情報収集する、ということが必要なのでしょうか。

高橋:両方大事だと思います。ただ、例えば「ChatGPT」について、ニュースにならない日は有りません。クラウド技術の活用については、十数年前から言われていることです。ですから、ニュース等を見ていれば「技術の大勢」は掴めるものだと思います。新しい技術やクラウドサービスを作ろうとするのではなく、「ありもの」を調達する形でよいわけです。ポイントは、その技術やサービスが、1年で消えていくものなのか、デファクトスタンダートになっていくものなのかということを見極めることだと思います。

和田:トレンド技術を掴むという観点だと、私の場合は、「自治体庁内以外のコミュニティ」に所属していることは大きかったと思います。異業界・異業種のエンジニアたちが集まるコミュニティなのですが、そこで「新しい技術」について議論をしたり、技術を試したりしながら、属人的な観点ではありますが、トレンド技術を追うことができているかなと思います。

自治体DXを進めるために

事務局:自治体DXを進めていくために必要なことは何なのでしょうか。

高橋:一つは「人のタイミング」です。首長からデジタル化の推進部署まで、「人のタイミング」は重要であり、町田市の場合は、関係者のベクトルをある程度揃えることができたのは「成功要因」の一つだったのではないかと思います。
 もう一つは、「ガバナンス」です。町田市の場合、情報システム全体の導入権限や資金をデジタル戦略室が持っています。そのため、「ガバナンスを効かせやすい」ということが、組織の構造上あるのではないかと思います。
 加えて、「様々なシステムベンダとの連携」です。私たちは、旧来型の情報システム部門のように、システムをイチから作るのではなく、様々なサービスやアプリケーションを組み合わせていく必要があります。様々なシステムベンダと会話をしていく、ということは大事だと思います。

事務局:デジタル技術の活用に当たっての「人材」については、どのようにお考えでしょうか。

高橋:デジタル戦略室の場合は、デジタル関連のプロジェクトを経験してきた人材が異動してくることが多いです。私としては、プロジェクトに入り、「面白い」と思ってもらえることを心がけているところです。
 ただ、一番大事なことは「現状を変えたいと思えるかどうか」だと考えています。システムは「ツール」です。「システムが好きだから、システムを導入する」ということはあってはならないことだと思います。「現状を変えたい、良くしたい」という根幹がなければ、次のステップには進めませんし、全体としてドライブしないのではないでしょうか。

庁内での広がりと他自治体への横展開

事務局:町田市の取り組みや知見を、他の自治体に横展開することはできないでしょうか。

高橋:デジタルの良さは「コピーできること」だと思います。町田市の取り組みも、コピーできるものだと思います。例えば、町田市は、「ガバメントクラウド」をかなり活用していますが、ある程度、「サーバの仮想化」がなされている状態であれば、そこまで難しいものではなく、費用的にも得でした。
 ただ、町田市には、様々な自治体などから視察にお越しになりますが、来られた自治体の中には、視察後、「大変そうだな」というところで終わってしまっているケースもあるかもしれません。結局は、「”やる”か”やらないか”」、そして「やりたいかどうか」の差でしかないのではないかと思います。

事務局:庁内での広がりはいかがでしょうか。

高橋:町田市では市長からのメッセージもあり、変えること自体に庁内での抵抗はないと思います。例えば、昨年「Tokyo区市町村DXaward2023」を受賞した「学校徴収金管理システムの取り組み」は、所管課が発案したものです。決して私たちデジタル戦略室だけが頑張っているというわけではなく、ユーザーとなる担当部局と、デジタル戦略室が連携して取り組むことができていると思います。

栗山:町田市では、「行政サービス改革イコールDX」として取り組みを進めています。デジタル戦略室は、経営改革室という行政改革部門と連携して動いており、2023年度からは、私たちも経営改革室を兼務するなど、経営改革の文脈でDXを進めているところです。
 2023年度には、庁内の各部署を対象に、「デジタルツール活用相談会(通称:デジラボ)」を56回開催しました。様々なデジタルツールやアプリを活用し、工夫次第で業務を変えていけるという視点をもちながら、各部署とミーティングを重ねています。デジタルをきっかけとした現場発の行政サービス改革を、更に起こしていければと考えています。

和田:取り組みを続けることで、「やって当たり前」というマインドチェンジが働いてきたことが大きいと思います。「やって当たり前」を増やしていく取り組みを地道に続けていきたいと考えています。

高橋:どうしても、やりたくない時は「できない理由」、「やらない理由」を探してしまうものだと思います。「やってみせる」ということとともに、「変わるんだ」、「変わったんだ」ということを、費用対効果やアウトカムを含めて見せていくことが重要だと思います。

自治体から見た「次世代通信」への期待

事務局:自治体として「5G」はどのように捉えておられるでしょうか。

高橋:「通信規格」そのものは特段意識していませんが、速度が速くなり、動画など重たいデータの利用が普通になってくると思います。自治体の業務では現在、テキストベースのシステムを使うことが多いのですが、重たいデータを取り扱うようなダイナミックなシステムになっても、性能を担保できるのではないでしょうか。ただ、現在の5Gは、通信のできる場所にムラがあり、場所によっては4Gベースの通信になってしまうことも多いです。「6G」などの次世代通信では、低軌道衛星の利用など「面的な広がり」に期待したいところです。

事務局:通信ネットワークへの「投資」についてはどのようにお考えでしょうか。

高橋:町田市では、今までサーバ側や端末側の「仮想化」を進めてきました。最後に残ったのは「専用線で構成された行政ネットワーク」でした。2024年度に取り組む「キャリア5Gの導入」は、マシンルームや通信のサーバ等の機器をなくすネットワークの「仮想化」のようなものだと捉えています。
 今までの費用と、キャリア5G導入後の費用とを比較し、5Gの方が安価になる見通しが見えてきました。キャリア5Gの導入により、通信設備のメンテナンスの必要もなくなります。また、5G閉域網でセキュリティも担保でき、また通信速度も今と比べて速くなることが想定され、端末の持ち運び等、利便性も向上すると考えています。

(ネットワークのイメージ)

事務局:自治体として「次世代通信」に期待することはどのようなことでしょうか。

高橋:インターネットの発展は、テキストから動画といった形で、どんどんリッチになってきました。それは、「通信」と「デバイス」の両輪で発展してきたのだと思います。また、通信が充実しなければ、「クラウド」の良さを活かすことはできません。「良いクラウドサービスがあること」と「安定し、高速で、セキュアな通信があること」、「良いデバイスがあるということ」の三つが揃わなければ、デジタルの世界は良くならないと思います。そういう意味で、「通信」は重要な位置を占めていると考えています。
 加えて、「大規模災害時の通信」についても考えなければいけません。災害時に通信がつながらないと、救助活動にも支障をきたしかねません。通信ネットワークが進歩し、災害にも強いネットワークであって欲しいと思います。

事務局:町田市様のデジタル化の取り組みと、その裏側にあるマインドが大変よくわかりました。高橋様、栗山様、和田様、本日は貴重なお話をありがとうございました。

(インタビューの模様)
※上段左から和田担当係長、高橋室長、栗山担当課長、下段左は事務局のNTTデータ経営研究所マネージャーの 松末竜